the ruins of a castle


 「さぁ行くわよ。」
 ヒールの靴音も勇ましく。エマ・ヘットフィールドは歩き出す。
『やれやれまたか』人の都合もお構いなしの所業を良く知っている助手は溜め息を付いて立ち上がろうとした。
ところが、エマは扉の所まで行くと不満そうに眉を歪めた。
「あんたじゃないわよ。」
「え…?しかし…。」
「貴方よ。貴方。ニコラ・マックスウェル!」
「え?僕かい?」
 側でお茶を飲んでいたニコラは、笑顔を崩さないまま顔を上げた。
 エマは、腰に両手を当て大きく胸を反らす。そしてルージュの乗った唇を吊り上げた。
「わざわざ、コートセイムから部品一個をお持ちになれる程お暇な貴方が適任よ。それに、人助けよ人助け。貴方好きでしょ?」 「エマ、僕の持っているARMの部品がどうしても必要だから届けてくれと言ったのは君じゃないのかい?」
「言われて出来るって事はお手すきの時間があるってことでしょ?男は細かい事は気にしないのよ。」
手前勝手な理屈を理論的に述べると、エマはフウと頬に手を当てた。
「ま、私なんかは空き時間は無くても求められてるって言うの?この世界に必要とされているってのも重荷だわよね。」
 自画自賛を臆面も無く連ねると、エマは再びニコラを呼びつける。 「もう、お茶も底が見えたでしょ。さっさと行くわよ。」 「…全てが相変らずだよ。君は…。」
 それでも笑顔を崩さず、底の見えたお茶を飲み干した。
「さて」と掛け声をかけたニコラに横から、助手が詫びを入れる。絶妙なタイミングは、日頃からの修業の現れか。
「申し訳ありません。ああゆう方ですので…。」
「ああ、わかってる。数十年の付き合いだからね。…この数に数字を入れると彼女が嫌がるんですけどね。」
「五月蝿いわよ!ニコラ!」



「そこに、エネルギーの残量と接続をみる奴が入っているはずだから。」
 ニコラは研究室の絶妙なバランスで積み上げられた道具箱を一つづつ降ろしながら中を確認している。彼女の言うものは別の道具箱に移し変えられていた。
「それはさっきから何度も聞いたよ。」
「無いはずは無いのよ。あるはずだから。」
 科学者とは思えない理屈を言いながら、彼女は箱の一つに腰掛け片手を膝の上に乗せ、それで自分の顎を支えていた。長いスリットが入ったスカートからおしげもなく足を晒し、つま先にのせたヒールをブラブラとさせていた。
「あれはどうしても外せないのよね。」
『外せないものだらけだな』とニコラは苦笑した。『もう少し片付けていればもっと早くに見つかるだろうに…。』
 先の二つの道具を見つけると、どうやらそれが最後だったらしくエマは大きく伸びをして立ち上がった。
「ところで、エマ。」
「ん?」
「何処へ何をしに行こうと言うんだ?」
「言ってなかったかしら?人助けよ。」
「具体的かつ客観的に状況を説明し、これからの行動に関連づけてくれないか?これまでの道具を見ると、遺跡の発掘もしくは、検査・調査というところだろうか?」
「惜しいけど、ブブ―ッ!。貴方も聞いた事があるでしょう?また魔獣が増え
たって噂。私の優秀な部下達がそれの探査に出掛けたのよ。」
「優秀な部下って、ロディ君達の事かい?」
エマは両手を前で組んで大きく胸を反らしニヤリと笑った。「当然。」
 優秀が付いているだけマシかと、ニコラはロディ達に同情する。勿論、彼女の部下名簿の中に娘の名前も加わっている事実は彼は知らない。
「んで、調査に行った彼等から、砂漠に未発見の遺跡を見つけたと連絡があったのよ。彼等では手に負えないらしいい、隊長自らお出ましという事ね。なぁ〜んて部下思いなのかしら。わ・た・し。」
「わかった、わかった。それで、どうやって行くつもりなんだい?ドレイク船長の手を借りるかい?」
 エマの瞳がキラリと光る。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれたわね。」 そう言うと、研究室の壁を蹴り倒した。ドドンと反対側へ倒れ込む壁の向こうには、ガルウイングが見える。「なんて仕掛けだ。」

「この壁が脆くなってただけよ。」 (今日から、研究室と格納庫は一間続きという事か…)
 ニコラは助手達の嘆き声が聞こえた気がした。
「しかし、いつの間にもう一台造ったんだい?」
「そう簡単に出来る訳ないでしょ!これは、機能を最低限に抑え、使用期限は一度きり!新型ガルウイング『片道くん』よ!」  ネーミングセンスの悪さは元より…とニコラは頭を抱えた。片道くんということは、行くだけ帰れない…。最低限の機能とは何だ!?そして…。
「名誉ある初代
パイロットは貴方を任命するわ。ニコラ・マックスウェル。」


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